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旭川地方裁判所 昭和45年(ワ)103号 判決 1973年1月29日

原告 島田善輔

原告 島田善晴

右原告両名訴訟代理人弁護士 竹原五郎三

被告 株式会社伊藤建材店

被告 鎌田秀夫

右被告両名訴訟代理人弁護士 大塚重親

同 岡部博

代理人大塚重親訴訟復代理人弁護士 古田渉

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告株式会社伊藤建材店は、別紙目録記載(一)の建物について旭川地方法務局紋別出張所昭和四十四年八月一日受付第二一二四号をもってされた抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。被告鎌田秀夫は、別紙目録記載(二)の建物について同法務局同出張所同日受付第二一二五号をもってされた抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は、被告らの負担とする」との判決を求め(た。)≪省略≫

被告ら訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め(た。)≪以下事実省略≫

理由

一  (一)及び(二)の建物について昭和四十四年八月一日に棚橋敬治名義に所有権保存登記がされ、(一)の建物について被告会社のために旭川地方法務局紋別出張所同日受付第二一二四号をもって抵当権設定登記が、(二)の建物について被告鎌田秀夫のために同法務局同出張所同日受付第二一二五号をもって抵当権設定登記がされていることは、当事者間に争いがない。

二  ≪証拠省略≫によれば、次の事項を認定することができる。すなわち、

(一)の建物は原告善輔が、(二)の建物は原告善晴がいずれも昭和四十一年ごろ建築し、それぞれ所有し、紋別市へは建物の所有者を届け出て、家屋補充課税台帳には所有者として原告らが登録されていたが、どちらも未登記のものであったところ、昭和四十四年七月六日ごろ、原告らと棚橋との間で本件(一)及び(二)の建物について代金を各五〇万円、手付金を各二五、〇〇〇円、残代金を同月末日に支払い、所有権移転登記はそれと同時にする旨の約定で売買契約が成立したが、棚橋は、残代金支払の資力が十分でなかったので、原告らに対し、家屋補充課税台帳の所有者名義だけでも同人に変更して貰えれば、その旨を第三者に示すことによって融資の道が開けるからそのようにされたいと懇願したため、原告らは、残代金の支払を受けていなかったが、それを承諾し、同月二十一日、(一)及び(二)の建物について家屋補充課税台帳の所有者名義を棚橋に変更した((一)及び(二)の建物について家屋補充課税台帳の所有者名義を棚橋に変更したことについては、当事者間に争いがない)。

一方、棚橋は、建築業者として事業を行なっていたが、その事業に要する建築資材を被告会社から継続的に買い入れており、昭和四十四年七月までに少なくとも四〇万円の支払代金があり、また、被告鎌田は、棚橋の事業に同僚数名とともに人夫として使われていたが、棚橋が労務賃金を支払わないため、被告鎌田が同僚に対して労務賃金の立替払をし、自分の労務賃金を含め同じころまでに棚橋に対し五〇万円足らずの債権を有していたところ、棚橋は、被告らの弁済の催促に対し、本件(一)及び(二)の建物は未登記ではあるが自分の所有にかかるものであり、これを担保として提供するから今暫くの猶予を願いたいと申し出たので、被告らは、司法書士の榎英雄に家屋補充課税台帳を確認させたうえで、本件(一)及び(二)の建物に抵当権を設定することとし、右榎にその設定登記手続を依頼した。右依頼を受けた榎は、紋別市長から本件(一)及び(二)の建物が棚橋の所有にかかるものである旨の証明書の交付を受けて、昭和四十四年八月一日、旭川地方法務局紋別出張所に対し、右建物の表示登記、棚橋を所有者とする所有権保存登記及び前第一項記載の抵当権設定登記手続をし、それらの登記がされた。≪証拠判断省略≫

右認定のように、棚橋は、本件(一)及び(二)の建物の売買残代金完済と同時に所有権移転登記を受ける約束であったのであるから、残代金の完済に先立ってほしいままに自分名義の所有権保存登記をする権限はなく、まして有効に抵当権設定登記をすることもできないものというべきである。

なお、請求原因第二項及び第三項の事実を認めるに足りる証拠はなく、却って棚橋が被告らのために本件(一)及び(二)の建物について抵当権設定契約をするに至った経緯は前記認定のとおりである。

三  そこで、被告の抗弁及び原告の再抗弁について判断する。

家屋補充課税台帳は、市町村が固定資産の状況及び固定資産税の課税標準である固定資産の価格を明らかにするために備えるもので(地方税法三八〇条一項)、市町村が建物登記簿に登記されている家屋以外の家屋で固定資産税を課することができるものの所有者の氏名等を登録するものである(同法三八一条四項)が、未登記の建物所有者が建物の表示登記及び所有権保存登記手続をするために必要な所有権を証する書面として市町村長が家屋補充課税台帳に基づき発した当該家屋の所有者である証明書をもってすれば容易にそれらの登記ができ、また、第三者が右台帳を事実上容易に閲覧することが可能であることを考慮すると、未登記の建物については、家屋補充課税台帳上の所有者名義が右建物の所有権帰属の外形を表示するものであると解するのが合理的であるから、家屋補充課税台帳上の所有者名義を他人に変更することを許した家屋の所有者は、この外形を信頼してその所有名義人から抵当権の設定を受けた者に対し、民法九四条二項の規定の類推適用により右名義人がその所有権を有しなかったことをもって対抗することができないと解するのが相当である。

これを本件についてみると、原告らが本件(一)及び(二)の建物の家屋補充課税台帳上の所有者名義を棚橋に変更する手続をとり、そのような変更がされたことは、前記のとおりであり、被告らが右名義の変更に至った事情を知っていたと認めるに足りる証拠はない(≪証拠判断省略≫)。したがって、棚橋は、本件(一)及び(二)の建物について所有権保存登記をし、抵当権設定をする権限はないにしても、原告らは、それをもって被告らに対抗することができず、被告らは、有効に本件抵当権を取得したものといわなければならない。

四  以上の次第で、原告らの本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 榎本恭博)

<以下省略>

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